FX 初心者の専門家の意見
割り切って、完全にイギリス式で押し通そうとしても、日系企業の経営陣がもともとイギリス的感覚を持っていないのだから、中途半端な対応になってしまう。
私がシティの日系の銀行で管理職だった頃、部下のイギリス人をびしびししごいた。
時間にルーズな社員や怠けている社員をきびしく叱り、しばしば怒鳴りつけた。
私用電話もうるさく注意し、「緊急時以外、友人や家族から電話をかけさせるな」と厳命した。
私は、おそらくイギリス人社員の間では、不人気ナンバーワンの日本人社員であったろう。
私のやり方ははっきりと日本流であった。
今は反省している。
しゃにむに日本式のやり方を押し付けるのでなく、日英の企業文化の差異には、もっと柔軟な態度をとるべきであったと。
柔軟な態度というのは、甘やかすことではない。
イギリスにおける日本企業の文化のあり方を探る、という意味である。
きびしくあたる時は跨曙すべきではない。
ただ、イギリス人は、仕事の時間にすでに述べたような濃淡があり、凹凸がある。
集中する時の迫力はすごい。
日本人のように時間にべったりという感じはない。
日本人にとって容易ではないが、この違いを飲み込むことが、イギリス人とシティでうまくやっていく第一歩かも知れない。
イギリスの金融界では、バブルの崩壊以降、日本の機関投資家の存在感はめっきり薄らいでしまった。
ジャパン.プレミアムといって、日本の銀行にだけ、通常よりも上乗せされた高い市場金利が課されたことはまだ記憶に新しい。
ながら、依然として日本は世界第2位の経済大国であり、その投資家の動向にはシティの連中も注意を払っている。
私は、仕事柄、毎週1回、日本の為替市場の動きについてレポートを出し、イギリス人ディーラーやセールスマンの前でコメントをしているが、彼らの反応を見ても、日本の大手機関投資家の動向に強い関心を持っていることが分かる。
最近は、豊富な金融資産を持つ日本の個人投資家が、外国通貨建ての債券を大量に購入しており、時として為替市場に大きな影響を与えるようになった。
バブル崩壊以降、シティにおける我々日本人の存在感は確かに低下したが、それでもまだ日本の影響力は小さくないのである。
ただ、シティのイギリス人が異口同音に言うのは、日系企業の意思決定の遅さである。
新しい債券が発行された場合、購入するかどうか日本の投資家が決めるまでだいぶ時間がかかる。
イギリス人社員はいらいらして、「なぜ、日本の企業はこんなに時間がかかるのか」と、私たちを責める。
「日本企業の意思決定の仕組みは複雑なのだ。
彼らは非常に慎重だし、なじみの薄い外国企業の債券を買うのだから、細かく調べなくてはならない。
そこのところをよく理解して欲しい。
だが、ひとたび納得すれば、彼らは大きな金額を投資する。
だから、もう少し待ってくれ」「債券はもうすぐ売り出きれてしまう。
イギリスの顧客からはすでに発行額を超える注文が来ている。
同じアジアのシンガポールからも韓国からも注文が来ている。
まだ買うか買わないか決めてないのは、日本の顧客だけだよ。
もう注文を締め切るぞ」時々、こうしたやりとりが、債券の発行担当者と日本企業を受け持つセールスマンの間で行なわれる。
私は、懸命に日本企業を援護する。
「国が違えば、決定方法も違うのだ。
そう言わずに、あと1日待ってくれ。
きっとドカンと大きな注文が来るから」。
国際金融に関わっているほとんどの日系企業は、ロンドン支店に調査部を持っている。
企業によって違うが、駐在員と現地雇用のイギリス人で構成する質の高いアナリストチームも増えている。
日本の企業が欧州の債券に投資する場合、この調査部が中心となって、起債する企業(発行体)の事業環境から財務内容、債券の発行条件まで細部にわたって念入りに調べあげる。
地元の欧州で仕事をしているのだから、欧州企業に関して、彼らの調査能力は高い。
投資の最終的な決定は、本社が行なう。
現地の駐在員が本社に栗議をあげ、その判断を仰がなければならない。
冥議が本社の担当部署に提出され、今度は本社の審査部門が調べ始める。
かなりの質問がロンドン支店に投げかけられ、現地の駐在員は回答にまた時間を費やす。
やっと、決裁が降りた時には、もうその社債の発行が終わっていた、ということもある。
実は私もかつては駐在員だった。
ある商社のアメリカ現地法人で、取締役兼マネジャーという肩書きで仕事をしていた。
ただ、取締役とは形ばかりで、決定権は何もなく、何につけても東京本社の判断に従わなければならなかった。
その当時の私の任務は金融関係でなく、水産物の買付けだった。
鮭やニシンの買付けの交渉が始まると、東京本社に現地の正しい情報を伝えるのに心を砕いたものだ。
本社から与えられた交渉条件が、現地の実態からかけ離れていることが多かったからだ。
東京の水産業界で流れている情報と、現地で入手した情報との間に大きな開きがあり、本社への説明に手間取っているうちに、ライバル企業に出し抜かれるという苦い経験を何度か味わった。
その時は、「ああ、本社が俺を信用して一任してくれていたら、せっかくのビジネスチャンスをみすみす逃すことはなかったのに」と悔し涙を流した。
私には買付け価格を決める権限がなく、すべて本社の意向に沿って行動しなければならなかった。
本社と現地の情報の溝を埋めているうちに、目の前の商売が逃げていった。
我慢出来なくなった私は、結局、駐在期間の途中で会社を辞めたのだった。
辞表は航空便で送った。
その封筒を投函した時の「コトン」という冷たく硬い音は、今でも耳の奥に残っている。
水産物の売買と金融取引の違いこそあれ、こうした経験から私は、シティで奮闘する駐在員たちの苦労はよく理解出来る。
私がアメリカで魚の買付けをしていた時は、ライバルは同じ日本企業だけだったが、金融市場では世界の金融機関全部が競争相手だ。
欧米企業の場合、意思決定までの時間は短い。
組織が日本企業より単純に出来ており、権限が少数の幹部に集中しているからだ。
まして彼らは、欧米企業に関する豊富な情報を持っている。
そんな彼らと張り合うには、こちらのやり方を変える必要がある。
ひところ、外国では、日銀の金利引き下げの決定が、○○」(小さ過ぎるし、遅過ぎる)と抑愉された。
熟慮して慎重に決定を下すのは、日本人の長所だが、それでは間に合わず、2001年9月11日のニューヨーク同時多発テロが起きた後、世界の航空会社の経営は危機的な状況に瀕した。
事実、Sイス航空など破綻に至った企業が何社か出たのである。
イギリスのある航空会社は、顧客の激減を予想して、事件後わずか2週間で、大幅な人員整理を打ち出した。
その頃、たまたま国際電話で話したある日本企業の重役N氏は、「欧米企業のすることは、素早いですなあ」となかば呆れたように言った。
日本企業なら、もう少し様子を見て慎重に決定する、と彼は言った。
無論、提供した情報に誤りがない場合に限ってのことである。
結果的に、株価が上昇せず、彼らが損失をこうむったとしても、基本的な情報に誤りや偽りがなければ、彼らは絶対にセールスマンを責めたりはしない。
投資は自己責任であることを彼ら自身、知り抜いているからだ。
「良いアイディアだったが、今回は残念だった」と言うだけだ。
淡々としたものだ。
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